地震直後の凄惨な被災現場においてなお、自衛隊の人々は目の前にあらわれるアルバムや写真を無下に扱うことは出来なかったと言います。それは、アルバムや写真が単なるモノではなく、まさに思い出の象徴だったからなのだと思います。津波警報が解除されはじめた頃の、テレビ報道の映像に、私たちの多くは驚きを隠せませんでした。瓦礫と化してしまったかつての我が家に戻る被災者の皆さんが、真っ先に探したもの。それが写真だったからです。
富士フイルムは、写真とともに成長をしてきた企業です。そんな私たちの製品でもある写真が、泥だらけになってなお、被災者の皆さんの拠り所となっている姿に私たちは、姿勢を正されるような気持ちでした。そして、そんなかけがえのない思い出を守るために、
それについて、社員一人ひとりが考え始めたのは必然でした。
そんな頃、実際に被災地から汚れてしまった写真の洗浄方法についての問い合わせが多く寄せられるようになります。現地で取材するメディアの方からも「写真が汚れてしまい、どうしていいかわからず困っている人たちがいる」という情報が入ってきます。このお問い合わせにお応えする必要を感じた私たちは11年前に起こった東海豪雨による名古屋水害の際の知見をもとに、3月24日、ホームページに「泥水で汚れた写真の対処法」を掲載しました。しかしあくまでこれは雨水による洪水での知見です。
この疑問は、富士フイルムとして当然早急に検証すべきものでした。早速、私たちは海水を手に入れ泥水をつくり、さらにプリント方式や保管方法によってどれだけダメージが異なるか、出来る限り被災地の現状にあった情報を提供すべく、弊社神奈川工場足柄サイトにて60数パターンの実験を開始しました。
その結果について随時ホームページに反映したところ、「ありがたい情報」「写真は宝物」「銀塩写真はすごい」など、弊社を評価してくださる声や、プリントだからこそ思い出が残ったと、プリントを評価する声がネット上に多数見受けられるようになりました。そしてそのことが、富士フイルム社内での議論をより活発にしてくれました。しかし、この時点で私たちはもどかしさを感じていました。それは、本当に被災した写真を目にしたわけではなかったからです。
そのためには、被災地へ行くしかありません。